朝から高いハシゴに登って、枯れた桃の木の枝を切った。簡単なことではなくて、結構高い場所に昇ってのこぎりで何本も太い枝を切った。この桃の木、実家にあるアトリエの上にあって、この時期ピンク色の綺麗な花を沢山みせてくれる。近所の人たちも楽しみにしていて、ご近所に春を知らせる花だったりする。
あまりの勢いで木を切り始めたので、近所の人たちもこれから花咲くシーズンを前に切ってしまうかと、次々に現れたが、枯れた枝の剪定だと聞いて帰っていった。この桃の木は、父が大切にしているもので、なかなか切ろうとしなかったが、さすがに折れて通行人にケガをさせてしまっては。ということで切ることにしたらしい。
古い桃の木には、むくろがあったり、枯れていたり、新しい芽が出ていたり、同じ木の中でもさまざまな様子を見せている。それは、まるでひとつの人間の家族のようだ。老いていく人あり、元気に育っていく子供達ありといった感じもする。これまで、高い木に登って剪定を自分で行っていた父が、これまでさせなかったような剪定をさせるようになったことが気になって、どこかこの大きな桃の木の様子に我が家の様子を重ね見た。
自作のオブジェ「星霜への考察」は以前、杉の木の伐採に立ち会ったことから「時間」に目をむけてその制作がスタートした。今日の桃の木の伐採は、なにか老いゆくものとの別れを強烈にイメージさせた。ものをつくる発想の原点は人それぞれだが、僕の場合いつも誰も気にならないような小さな身近な出来事からのことが多い。木を切るというのはいつも僕になにかをイメージさせる創造の原点になりやすい。