印刷博物館で開催中の「印刷と美術のあいだ―キヨッソーネとフォンタネージと明治の日本」に出品されている、キヨッソーネのエングレービング作品が素晴らしい。技法を超えて質感に見える技巧は、超絶と言っていい。一見の価値がある。
エドアルド・キヨッソーネは、明治にお雇い(御雇)外国人としてお札の技術を日本に伝えた人物である。現在でも、日本のお札の肖像はエングレービング技法で彫られているが、その原点にあたる技法を伝えたとされる。西郷隆盛や明治天皇の肖像画は彼の代表作として一般にも良く知られた作品だろう。
この展覧会では、当時お札を彫った道具も展示してあり面白い。展示品の中に当時使われたビュランがあった。とても短く作ってあるので、使うときは指先からほんの少しだけ刃が出ているような感じだろう。日本版画協会会報158号の中で、東京芸術大学名誉教授中林氏のアトリエ訪問特集として、このビュランの型を模して作られたものを掲載したが、原型とされるものは、もう少しスリムに作られている。
版画芸術としては、明治期にビュラン技法作られた優れた作品は生まれなかったが、印刷技術として紙幣寮(造幣局)では、外国人が制作したにせよ、息を飲むような作品が作られていたことを知ると、高い技術はどんなものでも、一般の社会とは隔絶された中で生まれるものだと改めて思う。
歴史にもしはあり得ないが、キヨッソーネの技術が版画芸術に直接反映されていたら、日本から世界屈指のビュラン作家が沢山生まれていただろう。銅版画愛好家なら、この展覧会の第一室は、道具と作品と合わせ大変興味深く見ることが出来ると思う。
(写真はキヨッソーネが日本に伝えた型のビュランを制作している所)