ルーペを使って銅版の製版をする。普段は手先の感覚を頼りに彫りをするが、ここ最近大型のルーペを使う。手先の感覚が鈍くなるような気がしてあまり好きではないのだけど、目立てした凹凸をどこまで彫れば、どんな色調になってくるのか的確に掴むために、最近はルーペを使っている。
照明付きルーペは、目視よりよく見えるが疲れる。初めて見たときに、すぐに欲しがる自分に目が悪くなるので勧めないと言われたことを思い出す。
最近、論文の関係で、50倍の高倍率ルーペを使って版の表面を見ることがある。10倍程度の拡大率のものよりはっきりした凹凸を見ていると、ベルソーの種類によって出来る凹凸の形に大きな変化が見て取れる。この凹凸をどのように組み合わせるのか、彫るのか、つぶすのかによって幅広い階調の表現が生まれる。
身体的に身についた技術によって、感覚的に進めて行くことが制作のスタンスとしては望ましいのだけど、銅版画というのは、かなり科学的な根拠に基づいて制作することが出来るので、基準を作り、目安に持つことは安定した制作を続ける上ではとても重要なことではないかと思う。