少し前になるが、作曲家と共に旅をした際に、リズムのことを聞いたことがあった。「心臓の音が早いと、作り出す曲のリズムも早くなる。」と、そう彼が言ったように記憶している。心臓の鼓動が早いというより、彼は少しせっかちだと思うのだが。まあ心臓の鼓動がはやいからせっかちということもある。
音楽に限らず、この傾向は、クリエイティブに制作されたもの全てに当てはまるような気がする。最近はエッセイを読んでいると、この人は少し文章が早いなあとか、絵を見ていると、少し余裕がないなあと思うことが多くなった。それは年齢に限ったことではなく、きっと本質的なものを表すのだろう。
気の短い僕には珍しく、最近ゆっくりと銅版画のエングレーヴィングという技法のトレーニングをしているが、この技法が彫りだす線は、その心のリズムを良く反映しているように思う。僕の彫り出す線が、大らかに伸びやかにあって欲しいと今は思うのである。きっと今、僕の心のリズムは大きくゆっくり振りふれているのかもしれない。心のリズムは、銅の鏡は、魔法の鏡のようなもので、その人柄がよくうつしだされるものである。