ある会合で出会った女性に、「アーティストとしてプレゼンテーションに気をつけていることはなんですか?」と、尋ねられた。僕は「相手が理解しやすい内容に置き換えて話すことが重要です。」と答えた。今そんな風に思う根幹には、僕が美術をはじめる時、すこし斜に構えた芸術家様にずいぶんと示唆をなめさせられたことが原因にあるように思う。
難しい物事をいかに簡単に説明できるかが、本当の有識者だと思うのだが、インテリだなんて言われている職業の人の中には、ちょっとカッコつけたいのか、簡単なことをさも難しく話してみたりする悪い癖があるように思う。本当は、簡単に分かり易く説明できないただの馬鹿だと思われているのが、そういうナルシストな職業の人には、一般からのそのような差別的な視線も、逆にあつい賞賛の眼差と、とらえているように思っている人もいるように思う。
そんな稚拙なコメンテータが多いテレビ番組の中で、池上彰氏のNHKの週刊子どもニュースは本当に画期的な面白い番組だった。本当は羞恥心のある普通の大人のために子ども向けと称して放映していた節があるが、その果たした役割は大きかったと思う。いつも優しい言葉で、ゆっくりと時勢を語る池上彰氏の司会は聞く側にとって、知らないことをもう一度分かりやすく聞くことが恥ずかしいことではないということを教えてくれたような気がする。理解し合うことが、本来コミュニケーションの形なのだから、新聞やニュースもあの程度の分かりやすい内容のものをもっと放映すればいいのにと思う。
本当に意味のある話は、実は早口でするよりもゆっくりと話した方が、同じ時間の中でも多くを伝えることが出来るらしい。テレビの番組は少しテンポが速い。一言に大人といっても、理解や知識は人それぞれで、最初は何も共有してものはないのだと、専門の知識を有する人は自覚して、分かりやすく優しい言葉で相手に伝える必要があるのだと、池上彰氏がここまで支持されたことを重くとらえる必要があると思う。