横浜美術館で開催中の
ホイッスラー展を見る。日本の版画史では、ホイッスラーは駒井哲郎が影響を受けた作家として、版画を中心にフォーカスされることが多いが、本来は画家として著名だ。画家として有名な作家の多くが銅版画を残しているが、ホイッスラーはその中でも秀逸な作品が多いのではないだろうか。
画家の銅版画は、言うまでもなく構図やデッサンがしっかりしていることが特徴だが、ホイッスラーの銅版画は線がとても綺麗で、作品の印象がクリアに伝わる。カラッとした感じ。これが僕の見た印象。銅版画の本質的な良さが伝わってくる。
一方、油彩画や水彩画は、乱視の人が普段見ているような輪郭がはっきりとしない柔らかい印象を持っている。銅版画の中にもヴェニスを描いたシリーズは油絵の印象が重なるが、銅版画の多くは油彩画の印象とは随分ギャップがある。この落差がとても興味深い。
僕は銅版画の硬質な感じが好きになれず、長い間素描のような柔らかい印象の版画をつくろうと頑張ってきたけれど、方法が違えば表現も変わるということを考えれば、あまり無理しないでその技法で素直に出来ることをやってみるのもいいかなあと思ったりもする。
画家の人が作る銅版画を多く見るが、物質に向かって作るというよりも、描くということの延長なのだなあと感じることが多い。描くことに素直なのだろう。ホイッスラーの作品からは特に描くことへの自然な姿勢を感じる。画家の版画というのはさらっとしたものが多く、技術的に凝っていないところがなんとも魅力的に見えることが多いように感じている。